はじめに
「終活を始めよう」と思ったとき、最初に浮かぶのが「エンディングノート」と「遺言書」ではないでしょうか。
「名前が違うだけで、中身は似たようなものでしょ?」
そう思っている方も多いかもしれません。
でも実は、この2つは「役割」も「効力」も全くの別物なんです。
ここを混同したまま書いてしまうと、「せっかくノートに書き残したのに、手続きには使えなかった…」なんてことにもなりかねません。
今日は、それぞれの「得意分野」を知って、あなたに合うのがどちらなのか、一緒に見ていきましょう。
1. エンディングノートとは「家族への手紙」
エンディングノートを一言で言うなら、「ご自身の想いや希望を家族に伝えるための手紙」です。
法的な効力(強制力)はありませんが、その分、何を書いても自由です。
残された家族が、日々の生活や手続きで困らないための「道しるべ」になります。
ノートに書くべきこと(例)
- 医療・介護の希望(延命治療はどうするか、どの施設に入りたいか)
- お葬式の希望(誰を呼んでほしいか、遺影はどれがいいか)
- スマホのパスワード、サブスク(定期契約)の解約方法
- ペットのお世話について
- 家族への感謝のメッセージ
「法的効力がないから意味がない」なんてことはありません。
実は、家族が一番困るのは「財産分け」よりも、「スマホが開かない」「延命治療どうする?」といった日常の判断なんです。これを救えるのはエンディングノートだけです。
2. 遺言書とは「財産を守る法律文書」
対して遺言書は、「誰に、どの財産を渡すか」を決める、法的効力を持つ公的な文書です。
遺言書じゃないとできないこと
- 実家の名義変更(相続登記)
- 銀行預金の解約・名義変更
- 「長男に多く渡したい」などの指定
主な種類は3つ
- 自筆証書遺言:自分で手書きする(一番手軽だが、ミスで無効になりやすい)
- 公正証書遺言:プロ(公証人)に作ってもらう(費用はかかるが確実)
- 秘密証書遺言:内容は秘密にする(あまり使われません)
たとえノートに「家は長男に譲る」とだけ書いてあっても、効力は認められません。
遺言書には、法律で決められた「厳格な形式(ルール)」があるからです。
- 日付が特定できるか?
- 本人の署名と押印があるか?
- 書き方のルールを守っているか?
この「法的な形式」を満たしていないと、役所や銀行では「単なるメモ(手紙)」として扱われてしまいます。
「形式」にとらわれずに想いを残すのがノート。
「形式」をきっちり守って財産を動かすのが遺言書。
この違いだけは、しっかりと覚えておいてくださいね。
3. ひと目でわかる!違い一覧表
どっちを書くべきか迷ったら、この表を参考にしてください。
| 項目 | エンディングノート | 遺言書 |
| 役割 | 想い・生活情報の伝達 | 財産の分配・指定 |
| 法的効力 | なし(手紙と同じ) | あり(強制力がある) |
| 形式 | 自由(市販のノートでOK) | 法律で決まりがある |
| 費用 | 1,000円〜数千円 | 数万円〜(公正証書の場合) |
| 相続手続き | 参考資料にしかならない | そのまま手続きに使える |
4. プロが教える「賢い使い分け」
「じゃあ、どっちを書けばいいの?」という質問への答えは、「両方使うのが最強」です。
それぞれの得意分野が違うので、以下のように使い分けるのがおすすめです。
ステップ1:まずは「エンディングノート」から
- こんな人に: 終活を始めたばかり、まだ財産のことは決めていない、家族に負担をかけたくない人。
- メリット: 書き直し自由。本屋さんで買ってきて、カフェでコーヒーを飲みながら書けます。
- デメリット: いざという時、法的な強制力はありません。
ステップ2:ここぞという時は「遺言書」
- こんな人に: 持ち家がある、子供がいない、特定の誰かに財産を渡したい人。
- メリット: 確実に自分の意思を実現でき、残された家族の「遺産分割協議(話し合い)」の手間を省けます。
- デメリット: 形式が厳格で、作成に少しエネルギーが必要です。
いきなり遺言書はハードルが高いですよね。
まずはエンディングノートで「自分の財産には何があるか(預金、不動産、借金など)」を整理(棚卸し)してみましょう。それができれば、将来遺言書を作る時にすごく楽になりますよ。
5. よくある質問(Q&A)
Q. エンディングノートに「財産分け」について書いても無駄ですか?
A. 無駄ではありません! 法的効力はありませんが、「なぜそう分けたいのか」という「付言事項(メッセージ)」として、家族が話し合う時の重要な参考になります。遺言書には書けない「想い」を補完する役割があります。
Q. エンディングノートはどれくらいの頻度で見直すべき?
A. 誕生日や年末年始など、年に1回は見直しましょう。特に「資産状況」や「健康状態」、「スマホのパスワード」が変わった時は更新のタイミングです。
Q. 遺言書は何歳から書くべき?
A. 法律上は15歳から書けますが、実際には「不動産を持った時」や「定年退職した時」が一つの目安です。元気なうちに書くのが鉄則です(もし認知症になると書けなくなってしまいます)。
6. まとめ:まずはノートを1冊買うことから
「終活」というと重たく感じるかもしれませんが、要は「これからの人生をスッキリ過ごすための整理整頓」です。
- 心と生活を守るための 「エンディングノート」
- 財産(家・金)を守るための 「遺言書」
この2つは、車の「両輪」のようなもの。どちらが欠けてもスムーズにはいきません。
もし、「まだ何もしていない」という方は、次の休日に本屋さんで、気に入ったデザインのエンディングノートを1冊買ってみませんか?
まずは「美味しいお店リスト」や「行ってみたい旅行先」など、楽しいページから埋めていくのが、長続きのコツですよ。
このブログでは、これからも「法律」と「心」の両面から、後悔しない終活のヒントを発信していきます。

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